良くならない理由

クリニックに通っているのに良くならない理由

「クリニックにちゃんと通って、薬もきちんと飲んでいるのに、なぜ良くならないんだろう」

カウンセリングの現場で、こうした声を何度も聞いてきました。28年間、18,000件以上の面談を重ねてきた実感として申し上げると、これは決して珍しい悩みではありません。むしろ、多くの方が一度は通る道だと思います。

薬と休養だけで治る人は、体感で2割程度

あくまで私の臨床実感による数字ですが、心を病んだ方がクリニックに通い、薬と休養だけで良くなる確率は、20%程度ではないかと感じています。

残りの80%は、環境が変わるか、本人の物事の捉え方(認知)が変わらない限り、根本的には良くならない。これが、長年多くの方と向き合ってきて辿り着いた実感です。

なぜこの数字になるのか? それは、うつ状態で来談される方の内訳を考えるとわかりやすくなります。

うつには大きく分けて、脳の生物学的な基盤が主導となる「内因性」のものと、職場のストレスや人間関係、家庭環境といった外的な要因が主導となる「心因性」のものがあります。臨床の現場で見ていると、この二つはキレイに分けられるものではなく、両者が絡み合っているケースがほとんどですが、それでもなお、心因性の要素が強いケースのほうが圧倒的に多いというのが実感です。

内因性の要素が強い方には、薬物療法の効果は非常に大きく出ます。しかし、心因性が主体の方には、薬はあくまで症状を和らげ、休養を取れる状態を作る「土台」にしかなりません。その人を苦しめている環境そのもの、あるいはその環境をどう受け止め、どう意味づけているかという認知のパターンにまで、薬は手を伸ばしてくれないのです。

クリニックには、大きな価値がある

誤解のないように申し上げたいのですが、私はクリニックにも薬物療法にも、大きな価値と意義があると考えています。

急性期で、休養を取ることすら難しいほど消耗しきっている方には、まず薬で症状を抑え、動けるだけのエネルギーを取り戻してもらう必要があります。環境を見直すことも、自分の認知パターンに向き合うことも、一定のエネルギーがなければ着手できません。薬は、そのエネルギーを底上げしてくれる、大切な入り口です。

問題は、クリニックが「治療のすべて」だと思い込んでしまうことにあります。通院と服薬を続けていれば、いずれ良くなる。医師の指示さえ守っていれば大丈夫。そう考えて、環境への働きかけや、自分自身の認知の見直しを「治療の外側にあるおまけ」のように位置づけてしまうと、何年経っても同じところで足踏みを続けることになりかねません。

私自身の経験から

少し、私自身のことをお話しします。

私は何年もあるメンタルクリニックに通っていました。その中で、自分の状態が、医師の見立てである「うつ病」ではなく、実は「双極症Ⅱ型」ではないかと気づいた時期がありました。双極症Ⅱ型は、軽躁の状態がわかりにくいために見逃されやすく、うつ病として長年治療が続けられてしまうことが少なくありません。

ここで一つ、大切な補足をしておきたいと思います。私自身のケースは、悩みやものの考え方、ストレスから生じる「心因性」の心の病ではなく、脳という臓器そのものに原因がある「内因性」の心の病でした。ここまでお話ししてきた「心因性が多数派であり、環境や認知が変わらなければ良くならない」という話の、いわば例外にあたるケースです。だからこそ私にとっては、環境を変えることや認知を見直すことよりも、まず「正しい診断にたどり着くこと」そのものが、回復への一番の近道でした。

私はそのことを医師に伝えました。しかし、医師は自身の見立てを変えることなく、それまでの診断のまま治療を続けようとしました。私は最終的に、転院という選択をしました。

これは、その医師を批判したいという話ではありません。診断の見直しに開かれた医師もいれば、そうでない医師もいる。それは医療の世界のどの領域にも起こりうることです。私がお伝えしたいのは、その先にあることです。

もし私が「先生がそう言うのだから仕方ない」と、自分の違和感を飲み込んでしまっていたら、今の私はなかったかもしれません。専門家として長年この仕事をしてきた私自身でさえ、医療という枠組みの中で、自分の状態を主体的に観察し、疑問を持ち、行動を起こす必要があったのです。

患者は「治してもらう客体」ではない

ここからお伝えしたいのは、シンプルなことです。

医師は敵でも、万能の神でもありません。専門家として尊重すべき存在であることは間違いありませんが、絶対ではない。そして患者もまた、ただ「治してもらうのを待つ客体」ではなく、自分の状態を観察し、疑問を持ち、必要であれば行動する「主体」であるべきだと、私は思います。

クリニックに通うことは、回復への大切な入り口です。しかしそれは、ゴールではなく、スタートラインに過ぎません。そこから先、自分を苦しめている環境と向き合うのか、自分自身の物事の捉え方と向き合うのか。その主体的な取り組みがあって初めて、多くの方が本当の意味で楽になっていく、と私は感じています。

もし今、クリニックに通いながらも「何かが違う」「このままで良くなるのだろうか」という違和感を抱えていらっしゃるなら、その違和感を、どうか飲み込まずにいてください。それは、あなたが回復への道を、自分自身で歩み始めているサインかもしれません。

環境や認知に向き合う、もう一つの場所

では、環境や自分自身の認知パターンに向き合いたいと思った時、具体的に何ができるのでしょうか。

環境を変えるといっても、多くの場合、転職や引っ越しのように環境そのものをすぐに変えられるわけではありません。むしろ、今いる環境の中で、自分がどう振る舞い、何を我慢し、何を伝えられずにいるのか。そして、その環境を自分がどう意味づけ、どう受け止めているのか。そこに丁寧に光を当てていく作業が必要になります。

これは、薬では届かない領域であると同時に、一人で抱え込んで進めるのも簡単ではない作業です。自分では気づけない思考のクセや、無意識に繰り返しているパターンは、誰か第三者と対話する中で、初めて輪郭が見えてくることが少なくありません。

カウンセリングは、まさにこの「環境と認知に向き合う」ための場所です。診断や薬とは違うアプローチで、あなた自身が主体的に自分の状態を観察し、言葉にし、次の一歩を見つけていく。そのための時間を、一緒に作ることができます。

クリニックに通いながら、あるいはクリニックとは別に、そうした場を持ってみることも、回復への一つの選択肢として、心に留めておいていただけたら嬉しく思います。

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