性依存・性嗜癖障害を寛解させる
▼ その盗撮・痴漢、心の病かもしれません。
「盗撮がやめられない」「痴漢の癖が治らない」
そんな悩みを、誰にも打ち明けられずに、ひとりで抱えている方がいらっしゃいます。
「意志が弱いからだ」「自分はどこかおかしいのではないか?」
そう自分を責め続けている方も、少なくありません。
でも、まず知っていただきたいのです。
盗撮や痴漢、のぞきや下着泥棒がやめられないのは、あなたの意志が弱いからでも、性格が悪いからでもありません。それは、性依存症・性嗜癖障害という、れっきとした心の病なのです。
私は、性犯罪加害者の援助を積極的に行っている心理カウンセラーです。地元、愛知県名古屋市内で、28年・18,000件以上の臨床経験を持つ公認心理師です。
ここでは、なぜやめられないのか? そしてどうすれば良くなっていくのか? を優しくお伝えしたいと思います。
■ 「もうしない」が、当てにならない理由
盗撮や痴漢で捕まった方の多くは、涙を流しながらこう言います。
「もう二度としません」「する気にもなれません」と…。
その言葉、決して嘘ではないと思います。
捕まった直後は、本当にそう思っているのでしょう。
けれど、大切なのは、「今、する気があるかどうか?」ではありません。しばらく時間が経ち、日常に戻った頃、ふと心の中に「あの衝動」が再び湧き上がってきたとき、それを止められるかどうか? そこが本当の分かれ道なのです。
実際、カウンセリングや治療を受けていない方の再犯率は40〜60%にのぼると言われていますが、しっかりと治療を受けている方の再犯率は5〜15%にまで下がります。この差は、決して小さなものではありません。
■ なぜ、やめられないのか
「どうしてそんな馬鹿なことをするのか?」
周囲の方は、そう不思議に思われるかもしれません。
でも、それは、その方の性格が悪いからでも、意志が弱いからでもありません。性依存症には、大きく3つの背景があると言われています。
ひとつは、脳。もともと依存症になりやすい脳質を持って生まれてきた、という側面です。
ふたつめは、心。育ってきた環境や性格が関係することもあります。
みっつめは、環境。スマートフォンの普及や満員電車など、その行為をしやすい環境がそろってしまったことも一因です。
決してその方だけの弱さのせいではないということを、まずは知っていただきたいのです。
■ 良くなっていく病です。ただし「完治」ではなく「寛解」
こう聞くと、「一生治らないのか?」と不安になる方もいらっしゃるかもしれません。
ご安心ください。性依存症は、適切な治療を受ければ、必ず良くなっていく病です。
ただし、正確にお伝えすると、性依存症には「完治」という言葉はあてはまりません。あるのは「寛解」、つまり、しない状態を維持し続けられることです。だからこそ、良くなった後も油断せず、通い続けることが何より大切になります。
私がカウンセリングで大切にしているのは、まずしっかりとお話を聴き、その方の気持ちを受け止めること。そして、なぜやめられないのか? 心と脳の仕組みを丁寧にお伝えすること。そのうえで、その方に合った方法を一緒に見つけ、少しずつ、確実に、回復への道を歩んでいただくことです。
回復には、個人差はありますが、寛解まで概ね2〜3年ほどかかると言われています。長いと感じるかもしれませんが、その分、確かな変化を積み重ねていくことができます。
誰かを責めたり、追い詰めたりするための場所ではありません。カウンセリングルームは、あなたが自分自身と静かに向き合い、これからの人生を取り戻していくための場所です。
■ 処分が終わってからが、本当のスタート
警察の取り調べや裁判の間は、多くの方が強い不安を抱えています。「これからどうなるのか?」という恐怖が、ある意味でブレーキの役割を果たしています。
けれど、処分が終わり、罰金や執行猶予といった形で一区切りがつくと、多くの方がホッと胸をなでおろします。「やっと終わった」と…。
実は、ここが一番の注意点です。外からのプレッシャーがなくなったとき、以前と同じストレスや孤独に直面したとき、あなたはどう行動するでしょうか? 問題の根っこにある依存性や心の脆さは、処分が終わっても、何ひとつ解決していないことがほとんどなのです。
だからこそ私は、こうお伝えしたいのです。
「処分が終わってからが、本当のスタートですよ」と…。
再犯を防ぐために必要なのは、我慢や根性ではありません。衝動が生まれる仕組みを理解すること。ストレスとの付き合い方を学ぶこと。そして、根気よく、通い続けることです。
■ 通い続けることの大切さ
治療でもっとも大切なのは、実は「何を話すか」よりも、「通い続けること」だと私は思っています。
「来月の◯日は、カウンセリングの日だ」と予定を入れておくこと。予約日を覚えていること。自分に寄り添ってくれる理解者の存在を、心のどこかに置いておくこと。それ自体が、大きな抑止力になるのです。
数回通っただけで「もう治った」「する気も起きない」と自己判断でやめてしまう方も、残念ながらいらっしゃいます。でも、その自信こそが、もっとも危ういサインなのです。
■ 「性的しらふ」を目指して
回復のひとつの目安として、私は「性的しらふ」という言葉をお伝えしています。これは、性的なことを24時間以上考えずにいられる状態のことです。
最初は難しく感じても、カウンセリングを重ねる中で、少しずつ、その時間が延びていきます。「今日は一日、性のことを考えずに過ごせた」。そんな小さな積み重ねが、確かな寛解へとつながっていくのです。
また、性依存症に苦しむ方の多くは、決して「変質者」や「特別な人」ではありません。明るく真面目で、周囲から信頼されている方も大勢いらっしゃいます。共感する力や、想像する力が、少し育ちにくかっただけ。そう捉えることで、責めるのではなく、これから育て直していくという前向きな気持ちで、治療に取り組むことができます。
■ ご家族へ
ご本人だけでなく、パートナーやご家族が、一緒にカウンセリングルームを訪れることもあります。つらい事件や過去を、忘れてしまいたいと思うお気持ちは、痛いほどよくわかります。でも、どうか、ご本人がカウンセリングに通うことを、応援し続けてあげてください。あなたの理解と協力が、これ以上被害者を増やさないための、何よりの力になります。
■ ひとりで抱え込まないでください
もしあなたが今、盗撮や痴漢の癖に悩み、誰にも言えず、ひとりで苦しんでいるなら。あるいは、ご家族が同じように苦しんでいるのを、そばで見守っているなら…。
どうか、ひとりで、あるいはご家族だけで抱え込まないでください。
性依存症・性嗜癖障害は、恥ずかしいことでも、隠し通すべき秘密でもありません。適切な専門家のもとで、根気よく向き合えば、必ず良くなっていく心の病です。
一歩を踏み出すのは、勇気がいることだと思います。でも、その一歩が、あなた自身の人生を、そして誰かの平穏な日常を守ることにつながります。
私は、あなたの味方です。憎むべきは病気であって、あなた自身ではありません。
どうぞ、一刻も早く、専門家の扉を叩いてみてください。あなたのこれからを、一緒に作っていけたらと思います。
